対角化とは
次正方行列 が与えられたときに、ある正則な行列 を用いて を対角行列にすることを対角化といいます。
表現行列 の立場から説明すると、対角化とは有限次元のベクトル空間を として、線形写像 が与えられたときに の基底をうまく取ることによって線形写像 の表現行列を対角行列にすることです。
※ ここで線形写像 の定義域と値域が同じになっていることに注意してください。このような線形写像は自己準同型写像と呼ばれます。定義域と値域の次元が等しいので表現行列は正方行列になります。
対角化のモチベーション
対角化のモチベーションは、線形写像 が与えられたときにベクトル空間 を と直和分解し、 の制限写像 と に写像を分解して考えることです。こうすることで高次元のベクトル空間 の間の線形写像がより次元の小さなベクトル空間の間の線形写像に還元され、線形写像が扱いやすくなります。
とすると の表現行列は 次正方行列となりますが、制限写像 と の表現行列はそれぞれ 次正方行列, 次正方行列となります。大きな一つの正方行列を考えなければならなかったものが、ベクトル空間を直和分解することによって2つの小さな正方行列を考えれば良くなりました。
例
として
を
$$
f(\mathbf{x})=
\begin{pmatrix}
6 && 2 && -3 \\
-4 && 2 && 2 \\
5 && 3 && -2
\end{pmatrix}\mathbf{x}
$$
とします。このとき、
$$
W_1=\langle
\begin{pmatrix}1\\1\\2\end{pmatrix}\rangle ,\
W_2=\langle
\begin{pmatrix}1\\2\\2\end{pmatrix} ,\
\begin{pmatrix}-1\\2\\-1\end{pmatrix}
\rangle
$$
とおくと、
と直和分解されます。
ここで、
の基底
に関する表現行列
を求めると、
より
となります。
(
は
の1次元部分空間であるので
の間の自己準同型写像
は1×1の正方行列となります。)
また、
の基底
に関する表現行列
を求めると、
より
となります。
ちなみに、 と直和分解されているので の基底を順番に並べた は の基底となっています。
そして、この基底に関する
の表現行列は
を対角線上に並べた
となります。
不変
今はさらっと流してしまいましたが、普通 の定義域を部分空間 に制限したからといって値域も に収まるとは限りません。普通は からはみ出てしまいます。
でも、いま私達は写像 を制限したときに定義域と値域が同じになるように、すなわち となるようにしたいのです。
よって
のどの元を
で送ってもまた
に属するような部分空間でなければなりません。
すなわち、
です。これを満たす部分空間を
不変な部分空間といいます。
以上のことから、ベクトル空間を 不変な部分空間に直和分解すれば考えたい線形写像を自己準同型に分解できることが分かりました。
(先ほどの例では がちゃんと 不変になっていたのでうまくいっていたのです。)
対角化
直和分解をしていくと制限写像の表現行列がどんどん小さくなっていきます。このとき、最も小さい正方行列とは何でしょうか。そう、1×1の正方行列です。 を 不変な1次元の部分空間に直和分解すればその表現行列は1×1の正方行列になります。 先ほどの例でも触れたように直和分解したベクトル空間の基底を順番に並べていくと、もともとの写像の表現行列はそれぞれの制限写像の表現行列を対角線上に並べたものになります。 つまり、対角化とはベクトル空間を 不変な1次元の部分空間に直和分解することなのです。
固有ベクトル
ここで起こる疑問は 不変な1次元の部分空間をどうやって見つけ出すかということです。
不変な1次元の部分空間を
とします。
は1次元なので一つのベクトルからなる基底がとれます。これを固有ベクトルといいます。
固有ベクトルの一つを
とおくと
は
不変だったので
, すなわち、
あるスカラー
が存在して
がいえます。
これを移項すると
.
すなわち
と分かります。
※
全てのに対して
を
に属する固有空間と呼びます。
※
は
の表現行列である1×1の正方行列のただ1つの成分となっています。
固有値
ここで は の基底だったので を満たさなければなりません。 だったので となっていないと固有ベクトル がとれません。そこで、 となっているようなスカラー を探せば良いことが分かります。このスカラー を固有値といいます。
固有多項式
固有値が求まれば零集合でない固有空間が求まり、固有空間の0ベクトルでない元を取れば 不変な1次元部分空間の基底が求まることが分かりました。 よって固有値を探す方法を考えます。
行列式 は の多項式になっています。これを の固有多項式といいます。
実は、この多項式の根が行列 の固有値を全て与えています。
対角化可能
以上より、行列
を対角化するにはまず固有多項式
を求め、その根である固有値
を求め、それぞれの固有値に属する固有空間
を求めることで、
と
不変な部分空間に直和分解します。固有空間の0ベクトルでない元はそれぞれ1次元の
不変な部分空間を生成するので、
それぞれの基底を取ることで、
が1次元の
不変な部分空間に直和分解できます。
ただ、 はいつでも成り立つわけではありません。全ての固有空間の直和をとったときにベクトル空間 全体にならないときもあります。このときは対角化は出来ません。
固有多項式が1次式の積に因数分解出来ないときや、それが出来たとしても重解があり、固有空間の次元が対応する固有値の重複度に満たなかったりすると対角化できません。
いいかえると、固有多項式が1次式の積に因数分解でき、全ての固有空間の次元が対応する固有値の重複度に一致しているときその行列は対角化できます。
ある行列が対角化出来るときに、その行列は対角化可能であるといいます。
三角化可能 ジョルダン標準形
対角化出来ないときでも、固有多項式が1次式の積に因数分解できるとその行列はある上三角行列と相似になります。底の変換により表現行列を三角行列にすることを三角化といいます。
さらに、三角化可能な行列はジョルダン標準形と呼ばれる簡単な形にすることができます。
例えば複素数の範囲では、全ての多項式は1次式の積に分解できるので全ての複素数成分の行列は三角化可能です。すなわち、全ての複素数成分の行列はあるジョルダン標準形と相似になっています。